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いきなりステーキは「悪い店」だったのか?

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togetter.com

まとめられてる内容はいいんだけど、ところどころ「店」の良しあしと「経営」の良しあしが混同されているような気がする。

少なくとも「誰かにとってはいい店」だったのでなければ、そもそも人気にならなかったと思うのだが。

経営陣は確実にダメだったと思うし、それについてはすでに過去記事に書きましたが

www.tyoshiki.com

そのことと「店」がダメだったというのは別の話だと思う。

「良い店」なだけではだめで、経営のかじ取りが失敗したらすぐにダメになるのが飲食店の難しさだと思う

少し話かまそれますが、私は投資を一番最初に始めたころAPカンパニーがやってる「塚田農場」が少し高いけど接客も味も良い店だなって思ったんですよ。

実際店員にきちんとした給料を払い、店員の教育もしっかりして接客で勝負するというコンセプトでした。

www.tyoshiki.com
(旧ブログから記事を持ってきたのではじめて記事を書いたのは2015年頃です)

この会社は取材した結果ダメな企業であれば容赦なく叩き切る「ガイアの夜明け」でも好意的に取り上げられており、世間的にも「良い店」だったと思います。(株クラでは「ライトキャバクラ」って呼ばれてたのは後で知った)

だから、そのころ業績と株価の仕組みすらわかってなかった私は割高なAPカンパニーの株を買って爆死するわけですがまぁそれは置いといて。

「私にとって良い店」であることと、「経営としてうまくいってるか」は全くの別問題。

実際この店は私が良いなと思った頃が業績のピークで、その後最近までずっと業績が低下していきました。

f:id:tyoshiki:20191226072227p:plain
https://tyn-imarket.com/stocks/3175?term=annual

・社長の不祥事
・ワタミやモンテローザにコンセプトをパクられて向こうのほうが安かった(接客は悪い)
・結局日本人は接客が悪いと文句言うくせに良い接客に対してプレミア価格を払わない
・単一業種なので二回か三回行くと飽きる

だったわけですね。「いざ行ってみたらいい店」だけど「わざわざリピートしない」というわけです。

結果として

・人件費を削ってるほかの店に価格競争で勝てない
・オペレーション担当の執行役員が退職

といった事情からどんどんと経営が苦しくなっていき、次第にオペレーションも悪くなりました。

結局今この企業が持ち直しているのは、「塚田農場」が復調したからではなく
新しい業態が軌道に乗り始めたり「高級弁当」がヒットしているからです。

そもそも「良い店」とはなになのか?コンセプト抜きで語れるものなのか?

私は飲食店の素人なのですごいざっくり言いますと

①店のコンセプトと客層がマッチしていて

②永続的ではないにせよ差別要素(参入障壁)があり

③結果として従業員に過剰な負担をかけることなく適切な利益が出せる

というのが大事だと思います。

いうのは簡単だけれど、飲食店はビジネスモデルが保護されにくくパクり放題なので②が非常に難しい。

なので、「良い店」であり続けるのは至難の業だと思います。

初期のいきなりステーキは間違いなく「良い店」だったと思います

いきなり!ステーキは「俺の~~」と同じコンセプトです。

店やサービスのコストを削る代わりに

・ランチに3000円出せる層に対して、1500円~2000円で質的には劣らないステーキが食べられる
・買い物に来た客に対して、500円上乗せすればいつもより質の高いステーキが食べられる

というものでした。

第一号店が銀座だったように、本来はそういうところでで働く金持ちのリーマンどもに対して、300gを2000円前後っていう格安価格にしたことで、昼飯や仕事帰りに気軽にいきなりステーキ食えるようにしたのがウケてたんだけどな。

いきなりステーキのステーキはいきなりステーキでしか食えない。肉の厚みが違う。一般人は同じ厚みの肉を用意できない。ジャックハンマーの「ギュウウウウ ナポ…」の体験が出来るステーキをわずか2000円で食える(食えた)ことに価値がある。

https://togetter.com/li/1446920

このコンセプト自体は今でも間違いだったとは思いません。このコンセプトで通している限りは間違いなく「良い店」だった。少なくとも市場はこのコンセプトについては高く評価していたし、そのコンセプトがハマるところに出店していた100店舗あたりまではみんな褒めまくってた。


私は100店舗になる前に初めて食べに行きましたが、その頃はまだ立ち食い形式でした。もちろん今みたいに200gって言ってるのに350gにしたりすることはなかったし、気軽に美味しい肉を食べることができてよかった。とても気に入ったので家族やほかの人を連れていく程度には「良い店」だったわけです。


なので、↓のツイートは「このコンセプトで考えると」完全に的外れだと思います。(※後述しますがこのツイート自体は間違いではありません)

むしろこういう価格の割に内装がーと言う人に対しては、あなたはうちのターゲットじゃありません、と切り捨てているからこその、かなり尖ったコンセプトの「良い店」のはずでした。


「悪い店」になったのは、大衆化しようとして自らのコンセプトを埋没させたからなのかな?

市場は、明確なコンセプトで客を絞って高単価高回転で利益を出すいきなり!ステーキを歓迎しました。

でも、一ノ瀬社長はそう考えなかった。

この社長さんとにかく出たがりでいろんなところでしゃべってるからわかると思うんですが「ステーキをもっと身近に」みたいな感じでどんどん大衆化させていきました。

そして、せっかく差別化されていた要素を捨ててレッドオーシャンに飛び込んでしまった。

overtheperiod.hatenablog.com

こちらの価格帯は肉の品質こそ「いきステ」にはおよばないものの、「家族向け」というコンセプトのもとサイドメニューのサービスが充実している店舗がひしめき合っています。


残念ながら、食事に2000円出すのに抵抗がある層にとっては明らかにいきなりステーキは「悪い店」です。

その結果、さっきの三沢さんみたいな感想が妥当性を持つ店になってしまったわけですね。

とはいえ、自分が経営者だったとしたらどうすればよかったんでしょうか?

そもそも「いきなりステーキ」は値段の割に良い肉を食わせるというコンセプトの関係上飲食店の中でも特別に粗利率が低いです。

このため

・客単価をあげて
・回転率を高くして
・店員の負担を減らすためにメニューを絞り
・サービスも極力省力化した上で満足してもらう

ことが求められたのに、どんどんその逆をいくようになってしまった。


・客単価はどんどん下がり(ワイルドステーキばっかり注文される)
・回転率は悪くなり
・メニューをどんどん増やして店員の負担は増え
・サービスは増やしてるけど顧客満足度は下がりつづける一方


粗利率改善のために肉を大量に仕入れる必要があり、そのために大量出店を必要としたのでしょうか?

よくわかりませんが、この数字を見る限りでは会計的な問題から大量出店を必要としていたように思います。損益分岐点をクリアするために「大量の肉発注で粗利率をせめてスシロー並みに改善し」「人件費や賃料を抑える」ということが求められた。


この方向性ではサイゼリヤのようにうまくいったケースもあるのですが(世界のプロシュート消費量の半分はサイゼリヤと言われるくらいに大量発注をして原価を抑えてる)、いきステではうまくいかなかったと考えられそうです。


かんたんなように見えていきステの問題はかなり複雑でした。一つの要素だけなら素人考えでも解決できるでしょう。そういうツイートしてる人はたくさんいます。

では、この絡まった問題はどうすればクリアできたんでしょうね……。


ちなみに、値引きやセールすればいいって言ってる人は利益のこと考えてなさすぎだし、実際いきステはセールをしてますます窮地に陥りました。ステーキハウスケネディの失敗例もあります。

www.mag2.com

現時点ではついに肉の質やサービスまで落ちてしまい完全に悪い店になってしまったようですが、これらは値引きの悪影響と考えたほうがいいと思います。サービスの質を下げずに値引きすることは難しい。値引きってほんとめちゃくちゃ難しいので「高すぎる。値引きすればいいじゃん」はもはや意見ですらないと思います。(私の意見ではなく、日本で一番いきなりステーキを食べている人がそう指摘しているのだから真摯に受け止めないといけないかなと)



そういうところまで考えると、意外といきステに対してかんたんにダメ出しするのって結構難しいと思いませんか?


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