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こちらに続けて、投資初心者向けシリーズ。
わかってる人には常識的すぎるお話です。先に結論をまとめておきます。
◆一般的にS&P500が日経平均と比較して割高である主な理由は
アメリカ企業がROEを最大化するために内部留保を抑制し、株主還元を徹底する経営スタイルの違いが原因。アメリカの経営スタイルが、構造的にPBRを高める要因となっている。
◆そして、近年「これほどまでに」割高になった背景は主に3つ。
① 指数における高PBRのハイテク・グロース株の比率上昇
② 大規模金融緩和を背景とした自社株買いの活発化
③インデックスバブルと 生成AIブームなどに伴う市場の熱狂と期待先行が噛み合ってユーフォリア状態に
その結果歴史的に見ても異常なレベルまでPBRが押し上げられている。
◆SP500の「株高」「割高さ」の理由が逆流した時のリスクは極めて大きい
この極端な割高さは、将来の成長期待に基づいたものであり
その期待が剥落した場合には、内部留保の薄さも相まって、大きな下落リスクを抱えている点には注意が必要です。
1. S&P500が構造的に割高である理由:ROE重視の経営と株主還元の徹底
S&P500構成企業、ひいてはアメリカ企業全体の大きな特徴として、株主資本利益率(ROE: Return on Equity)を極めて重視する経営姿勢が挙げられます。
これがS&P500が日経平均と比較して構造的に割高(特にPBRという指標で見た場合)になる根本的な理由です。
ROEとは何か?
ROEは、株主が出資したお金(純資産)を使って、企業がどれだけ効率的に利益を上げているかを示す指標です。
計算式は「当期純利益 ÷ 自己資本(純資産)」で表され
この数値が高いほど、投資家のお金を効率よく運用して利益を生み出していると評価されます。(益回りの高さを重視する)
アメリカの投資家とROE
アメリカの投資家は、企業の収益性や効率性を判断する上で、このROEを非常に重要な指標とみなします。
経営者はROEを高めることが、株価を上げ、自身の評価を守る上で不可欠となります。
ただ、この際にROEを高めるための戦略として「純資産を増やさない」という方法が取られがちです。
ROEの計算式を見るとわかるように
ROEを高めるには、分子である「利益」を増やすか、分母である「自己資本(純資産)」を減らす(増やさない)かの二つの方法があります。
アメリカ企業、特にS&P500に採用されるような大手企業は、利益を追求すると同時に、分母である純資産を極力増やさないという戦略をとります。
具体的には、企業が稼いだ利益を、内部留保として会社に蓄積するのではなく、
配当や自社株買いといった形で積極的に株主に還元します。
稼いだお金は基本的に株主のものであり、会社に貯め込むべきではない、という考え方が根底にあります。
内部留保を避ける経営の結果
この結果、アメリカ企業は利益を上げても、それが純資産として積み上がりにくくなります。
純資産の増加が抑制されるため、同じ利益額であればROEは高くなります。
これが、投資家から見て「効率的な経営をしている」と評価され、株価が評価されやすくなる要因となります。
成長資金の調達方法
「内部留保がなければ、どうやって事業を成長させるのか?」という疑問が生じるかもしれません。
日本企業が内部留保を設備投資や研究開発に充てることが多いのに対し、アメリカ企業は、
成長に必要な資金を社債発行や増資(新たな株式の発行)によって調達する傾向があります。
内部留保に頼らず、外部からの資金調達を積極的に活用するのです。
なので、「金利」は日本企業より遥かに重要となります。
余談:社債による資金調達の話(読み飛ばしてOK)
・ラッセル2000のような将来が不安定な企業は2年債~3年債でしか資金が調達できません。 当然これらの金利は国債の2年ものや3年もの金利をベースにしますからからもう高い金利に苦しんでいます。
・SP500のような企業でも5年~7年債がメイン。こちらももうコロナの時の超低金利で調達したお金の借り換え時期ですから金利負担は重たくなっている企業も増えてきています。
・マグニフィセント・セブンのようなトップ企業だけは無借金どころかお金が余りまくっていてむしろアップルのようにお金を貸す側に回っていたりしますがそれでも毎年社債を発行して資金調達しています。
低金利であればさらにお金を借りまくってどんどん成長することができますからね。だからこそ、アメリカでは低金利というだけで、経済がすごい活性化するし、利上げするとラッセルのような企業から徐々に業績が悪くなって景気後退が起きると言われていました。
つまり利上げ局面に入った場合、今までは2年~3年以内に利下げをしないとタイムリミットだと言われていました。
今回は2022年から利上げサイクルに入りましたから、2024年~2025年には景気後退に入るのが定石でした。
しかし実際のアメリカはトランプの暴走さえなければソフトランディングができていたかもしれず、だからパウエルがすごく評価されていたんですね。
2. 日本企業との比較:内部留保と安定性
一方、日本の企業(日経平均構成企業など)は、アメリカ企業ほどROEを絶対視する傾向は強くありませんでした(近年は変化しつつありますが)。
内部留保の重視
伝統的に、日本企業は稼いだ利益を内部留保として蓄積し、財務基盤を安定させることを重視してきました。これにより、不況時や予期せぬ事態が発生した場合でも、すぐに経営が傾かない「体力」を持つことができます。文章内で例として挙げられている「厚木」のように、数年間赤字が続いても、豊富な自己資本(純資産)によって事業を継続できるケースも少なくありません。
安定性とROE/PBR
内部留保を積み上げる経営は、企業の安定性を高める一方で、ROEの分母である純資産を大きくします。そのため、利益が同じであればROEは低くなる傾向があります。また、後述するPBR(株価純資産倍率)も、純資産が大きい分、低くなりやすい構造にあります。つまり、日経平均構成企業は、S&P500構成企業と比較して、安定性は高いものの、ROEやPBRといった指標では見劣りしやすい、という特徴がありました。
3. 割高さを測る指標:PBR(株価純資産倍率)
S&P500の割高さを理解する上で、このPBRが鍵となります。
PBRとは何か?
PBRは、現在の株価が、その企業の1株当たりの純資産(BPS: Book-value Per Share)の何倍であるかを示す指標です。
計算式は「株価 ÷ 1株当たり純資産」または「時価総額 ÷ 純資産」で表されます。
PBRが1倍であれば、株価と企業の解散価値(純資産)が等しいことを意味し、1倍を下回れば割安、1倍を大きく上回れば割高と一般的に判断されます。
ROE重視経営と高PBRの関係
前述の通り、アメリカ企業はROEを高めるために純資産を増やさない(株主還元を徹底する)経営を行います。
これは、PBRの計算式の分母である「純資産」を小さく抑えることにつながります。
分母が小さければ、同じ株価(時価総額)でもPBRの数値は高くなります。
つまり、アメリカ企業のROEを重視する経営スタイルそのものが、構造的にPBRを高め、結果として「割高」に見せる要因となっているのです。
歴史的なPBR水準
文章によれば、歴史的に見ても、日経平均のPBRが1.5倍~1.6倍程度であったのに対し、S&P500のPBRは2.8倍~3倍程度と、もともと高い水準にありました。
これは、これまで述べてきた経営スタイルの違いを反映したものです。
しかし近年、その水準はさらに急上昇し、「歴史的に見てもありえないぐらい高い」とされるPBR5倍を超える水準にまで達しました。
https://stock-marketdata.com/pbr-sp500.html
2000年からの傾向は、上限が5.06倍、中央値が2.85倍、下限が1.46倍となっています。
4. なぜ「これほどまでに」割高になってしまったのか? 近年の要因
その背景には、以下の要因が複合的に絡み合っています。
ハイテク・グロース株への偏重
近年のS&P500は、GAFAM(Google, Amazon, Facebook(Meta), Apple, Microsoft)に代表されるようなIT・ハイテク企業、いわゆる「グロース株」の構成比率が極端に高まっています。現在は4割程度がハイテク株という偏重ぶり。
これらの企業は高い成長期待から、PERだけでなくPBRも非常に高い水準で評価される傾向があります。
指数全体に占めるこれらの企業のウェイトが高まることで、S&P500全体の平均PBRが押し上げられました。
S&P500の構成銘柄は定期的に見直されますが、その際にも成長性の高い企業が組み入れられやすい傾向があり、指数全体の「割高さ」を助長する側面があります。
金融緩和と自社株買い
コロナショック後の大規模な金融緩和は、市場に大量の資金(流動性)を供給しました。
企業は低コストで資金調達しやすくなり、その資金の一部は自社株買いにも充てられました。
自社株買いは、流通する株式数を減らすことで1株当たりの利益(EPS)や純資産(BPS)を向上させ、株価を押し上げる効果があります。
文章では「アメリカの株価の上昇要因の半分以上が自社株買い」と指摘されており、金融緩和が株価(ひいてはPBR)を押し上げる一因となりました。
市場の熱狂・期待先行(バブル懸念)
特に生成AIなどの新しい技術への期待感から、関連するハイテク企業を中心に株価が急騰しました。企業の実際の純資産価値や利益水準から大きく乖離した株価形成が進み、PBRが歴史的な高水準に達した背景には、こうした市場の熱狂や将来への過度な期待(バブル的な要素)も含まれていると考えられます。
5. 高PBRのリスク:下落余地の大きさ
このようにして極端に高まったPBRは、大きなリスクも内包しています。
成長鈍化時の急落リスク
高いPBRは、将来の高い成長期待によって正当化されています。もし、期待されていたほどの利益成長が実現しなかったり、景気後退などで企業の収益が悪化したりした場合、株価は急速に調整される可能性があります。
内部留保の欠如による下値不安
日本企業と異なり、アメリカ企業は内部留保をあまり持っていません。そのため、業績が悪化した場合に株価の下落を食い止める「クッション」が乏しいと言えます。
歴史的に見ても、リーマンショックなどの危機時にはS&P500のPBRは2倍~2.5倍程度まで低下しました。
現在のPBRが5倍を超えている状況から、もし同様の調整が起これば、株価指数が半値以下になる(例:6000ポイント→3000ポイント割れ)可能性も理論上は考えられる、という厳しい見方が示されています。
金融政策の転換リスク
過去の株価上昇を支えてきた大規模な金融緩和は、インフレ抑制のために転換され、現在でもまだ引き締めが続いています。
金融引き締めは、企業の資金調達コストを上昇させ、自社株買いの勢いを削ぐ可能性があります。
株価上昇のエンジンの一つが失速すれば、高すぎるバリュエーション(PBR)の維持は困難になります。
そして今最大のリスクが迫っています・・・関税よりもやばい。アメリカの金融市場が政治的理由で世界各国から信任を失う、というリスクが……。
トランプがパウエル議長を解任して、何でもいうことを聞く人を後任にしたら、本当にトルコみたいなことになる気がするんですが...ドル売りが止まらない。 pic.twitter.com/Od9CTxQUcN
— 新村 直弘 (@nniimurarisk) 2025年4月21日